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こころをたくす、“いしぶみ”。

アカデミー賞に輝いた、あの【おくりびと】の映画のワンシーンで、川原で拾った小石に、気持ちを伝える場面があります。しみじみ、じんわりと、涙が頬を伝う、感動の場面です。このシーンを観たとき、私は、ハッとしました。このことを、昔、大好きだった向田邦子さんの著書で読んだ記憶があったからです。

男どき女どき (新潮文庫)

向田 邦子 / 新潮社





でも、この映画の脚本家は、小山薫堂という男性作家。う~む、納得がいかないまま、映画を観賞して後、映画のパンフレットを購入。そして、やはり!と納得。脚本家の小山氏が、コメントで告白してました。“いしぶみ”のヒントは、向田邦子さんの本を読んで知り、かねてからいつか脚本で使いたいと願っていたそうです。

向田さんの著書は、ほとんど読破して何冊かはリアルタイムに購入しているのですが、あいにく、このイシブミの事が書かれた単行本【男(お)どき女(め)どき】は、購入していなく、あの映画を観てから、図書館で探して借りてきました。その187ページ、<無口な手紙>の章に、“いしぶみ”のことが書かれています。少し、さわりをご紹介しますと…


                 <無口な手紙>

 自分がおしゃべりのせいか、男も手紙も無口なのが好きである。特に男の手紙は無口が
いい。
 昔、人がまだ文字を知らなかったころ、遠くにいる恋人への気持ちを伝えるのに石を使った、
と聞いたことがある。
 男は、自分の気持ちにピッタリの石を探して旅人にことづける。受け取った女は、目を閉
じて掌に石を包み込む。尖った石だと、病気が気持ちがすさんでいるのかと心がふさぎ、丸
いスベスベした石だと、息災だな、と安心した。
「いしぶみ」というのだそうだが、こんなのが復活して、
「あなたを三年待ちました」
沢庵石をドカンとほうり込まれても困るけれど (ほんとうにそうだと嬉しいが)、 「いし
ぶみ」こそ、ラブレターのもとではないかと思う。


この向田邦子さんの、言いたい台詞が聞きたくて、当時はよく、彼女の脚本のテレビドラマを見ました。新春スペシャルは特に大好きで、この本のタイトルにもなっている【男(お)どき女(め)どき】は、オドキメドキと読むことも、その意味も知らずに、わくわくしたものでした。秘めたことが得意な向田邦子の文章。しかし、オドキメドキの薀蓄には、笑った。オドキは、物事がぐんぐん伸びる上昇気流の運のよい年廻りをいい、メドキは、その反対で、物事がどんどん下がる下降気流の不運を指すらしい。http://www.tbs.co.jp/tbs-ch/lineup/d0239.html

それにしても、流石、向田邦子である。どんな僅かなエッセイにも、心にキュンと届く、イシブミのような言霊の原石が光っているのだから…。今年の私は、オドキか?メドキか?果たして、どんな石を誰に手渡そうか…それは、こぞ今年の、年神様のみぞ、知ることかもしれませんが…。

by clematis-myu | 2010-01-16 19:58 | 恋文